日本経済新聞

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著名人が語る綴りプロジェクト
ブル・デービッド

ブル・デービッドさん

(木版画職人)

イギリス生まれのカナダ人。
1951年生まれ。日本の文化にあこがれ、86年に来日、木版画職人としての腕を磨く。89年から10年かけて勝川春章の百人一首の版画をすべて復刻し話題を呼ぶ。青梅市(東京)在住。


第1回 ブル・デービットさん(木版画職人)

初回にお招きした著名人は木版画職人のブル・デービッドさん。
綴プロジェクトではこの2作品がお気に入りとのことです。

ブル・デービッドさんが気に入った綴プロジェクトの作品2点

作品の命、和紙へのこだわり

綴プロジェクトが複製した作品の中に、とても思い出深いものが2点あります。雪舟の「山水長巻」と尾形光琳の「八橋図屏風」です。日本の文化にあこがれ、初めて日本を訪れた30年ほど前のこと。日本の絵画に関する資料を集めようと古本屋を回った折に、ふと見つけたのが「山水長巻」のミニチュア複製品でした。当時は雪舟も水墨画もまったく知りませんでしたが、それは私が探し求めていた「日本の美」そのものでした。やがて私は木版画職人として日本に永住し、勝川春章の百人一首すべての版画を10年かけて復刻しました。雪舟がこの16メートルに及ぶ作品を描くのにどれほどの歳月を費やしたのか、絵画に携わるひとりとしてその重みをひしひしと感じています。

作業風景

一方、アメリカのメトロポリタン美術館に収蔵されている「八橋図屏風」はインターナショナルな感覚にあふれた作品です。これは伊勢物語の挿絵、いわばイラストレーションとして描かれました。発想がとても新鮮で大胆ですね。「山水長巻」とは逆に、私はこの作品からはほとんど日本を感じません。ダ・ヴィンチやミケランジェロの作品と同じように、世界中の誰からも高い評価を受ける作品であるといえるでしょう。残念ながら私は本物を見た事がありません。海外に所蔵されている作品ですが、綴プロジェクトによって高精細な複製品が日本に里帰りしていると聞いて、正直ほっとしています。


綴プロジェクトの活動は私の興味を大いにひき付けますが、その理由のひとつは、和紙へのこだわりです。私の仕事である木版画もまた、和紙に対して強いこだわりを持たなければやっていけない仕事です。日本には数百年以上前から、木版画というすばらしい絵をつくる技術がありました。私は木版画は世界ナンバーワンの技術だと信じています。絵師と彫師と摺師というプロフェッショナルたちの連携プレーによって生みだされる作品の奥深い美しさは、西洋の油性インキによる印刷テクノロジーとはまったく趣が異なります。日本に版画を伝えた中国の作品とも違うと思います。

作業風景

そして木版画に命を与えているのが、和紙です。もっと正確に表現するなら、和紙がなかったら、木版画は成り立たない。そんな存在です。私は現在、福井の和紙職人の製品を使っていますが、もうその町には数軒しか和紙職人がいません。その和紙が途絶えたら、私は木版画職人を廃業しなければなりません。それほど和紙は重要な存在なのです。

ひとくちに和紙といっても生産される地方や原料によって、あるいは時代によっても紙質は異なり、作品の仕上がりに大きく影響します。綴プロジェクトでは、オリジナル作品ひとつひとつの紙質を研究し、最適とおもわれる原料を調達して、綴プロジェクト専用の和紙を特注しています。世界に類を見ない独特の風合いを持つ和紙と、日本が世界に誇る最新デジタルテクノロジーの幸せな出会い。そこには綴プロジェクトの徹底したこだわりがあったのです。


実は私、綴プロジェクトを誤解していたところがありました。綴プロジェクトはデジタルテクノロジーによって、オリジナル作品の複製品を何枚もつくっているのだと思っていたのです。ところがそうではありませんでした。ひとつのオリジナル作品には、ひとつの複製品しかつくらない。それが絶対のルールだそうです。そしてデジタルデータは厳重に保管され、貸し出したりは一切しないとのこと。唯一オリジナル作品が破損した場合に修復のための基礎データとしてのみ活用が許されるそうです。すばらしい見識だと思います。改めて綴プロジェクトの作品に対する意志の強さを感じました。