日本経済新聞

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著名人が語る綴りプロジェクト
木場弘子さん

木場弘子さん

(キャスター)

1964年千葉県出身。
千葉大学卒業後、1987年TBS入社。女性スポーツキャスターの草分けとして活躍し、1992年に退社。以後フリーとして生活者の立場から、取材、インタビューを続けている。2006年から千葉大学教育学部特命教授。テレビ朝日「スーパーモーニング」等に出演中。


第2回 木場弘子さん(キャスター)

今回お招きした著名人はキャスターで千葉大学教育学部特命教授の木場弘子さん。綴プロジェクト作品の狩野永徳筆 国宝「洛中洛外図屏風(上杉本)」には特別な思い入れがあるそうです。

洛中洛外図屏風(上杉本)(らくちゅうらくがいずびょうぶ)狩野永徳筆 米沢市上杉博物館所蔵 国宝

企業の最新技術が社会貢献活動に直結

あれはまだ雪が残っていた頃でしたので、昨年の3月だったと思います。私は、講演のために新潟県上越市を訪ねました。折から、NHK大河ドラマ「天地人」が放映中。上越市は主人公の直江兼続とその主君である上杉家ゆかりの地ということで、行く先々で戦国時代のお話を聞くことになりました。上越市には林泉寺という古いお寺があります。ここは直江兼続と上杉家の菩提寺です。ここで当時の息づかいを感じ、より興味が湧きました。

講演風景

上杉家の遺産のひとつに「洛中洛外図屏風」があります。私はこの名に聞き覚えがありました。確か、高校の日本史の教科書だったか副読本だったと思います。16世紀後半の京の都の風景と風俗を伝える図として、大きく載っていました。林泉寺のあとで色々調べましたら、この屏風には、何と上杉謙信と思われる戦国の武将が描かれているという説が。屏風の中には当時の足利将軍邸が描かれていますが、その近くに描かれている勇猛な武将が謙信だというのです。信長が謙信に「早く京へ参上せよ」というプレッシャーを与える目的もあったようです。こういう事を知ると、「洛中洛外図屏風」が違ったものに思えてきました。当時の京の都を知る貴重な資料、という教科書の言葉が、とてもリアルに感じられるようになりました。


今回、綴プロジェクトの作品のひとつに、この「洛中洛外図屏風」が入っていたことを知りました。凄いなと思うのは、高精細複製の技術によって絵を高度に複製することだけではなく、京都の伝統工芸士の方々により金箔加工や表装・表具まで再現しているところです。綴プロジェクトというのは、最新デジタル技術と伝統工芸の合作なのですね。素晴らしいことだと思います。キヤノンさんは、この綴プロジェクトを企業の社会貢献活動として進めていらっしゃる。企業の持つ高度な技術による社会貢献活動です。決して本来の事業から離れていない。こうしたかたちで成立する社会貢献活動というのは、本当に珍しい例なのではないでしょうか。でも、これが社会貢献活動のあるべき姿のような気がします。

この綴プロジェクトで、私がもうひとつ惹かれているのは、完成した複製作品を多くの人に見てもらえるように努力していることです。これも重要な事業としての位置づけで、とくに小学生などの子どもたちに複製作品を見てもらうことを積極的に進めていらっしゃるそうです。

作業風景

今、私は母校の千葉大学教育学部で「教育と表現」というテーマの講座を持っています。今年で10年目になりますが、未来の教師たち、教育学部の学生を前に、コミュニケーション論を中心にした講義をしています。そうやって学生たちと触れ合うようになって、気づいたことがありました。現代の学生たちは、あの作品に惹かれるから実際に見に行ってみようとか、あの場所が気になるから実際に訪ねてみようと、行動に移す人が少ないのです。これは何故なのかなと考えてみますと、どうやらインターネットの普及によって、パソコンや携帯電話で世界中の情報が入手できることに理由があるようです。学生たちは、現物を見たり現場に立ったりしなくても、それをパソコンや携帯電話の液晶画面でヴァーチャルに体験できることで満足してしまう面もあるように感じます。学生たちには、せっかく情報入手の間口を広げた素晴らしい文明の利器を手にしているのだから、それを利用すると同時に、現物を見たり、現場に立ったりすることも両立させては、と提案しています。

英語には“I was there.”といういい方があります。直訳すれば「私はそこにいた」ということですが、これは現物を見たり、現場に立ったりすることの大切さを伝える言葉で、私は以前スポーツ取材で大事にしていた言葉です。綴プロジェクトは、国宝や重要文化財に指定され大切に保存されているため、実際にはなかなか見ることができない貴重な日本の文化財の高精細複製作品を作り、手に届くところで見せています。展示の際には、できるだけガラスケースなどに入れずに見せているそうです。歴史や芸術という分野での、現物、現場の体験を増やしていく活動のひとつなのですね。

未来を担う現代の若者や子どもたちには、現物、現場を体験できる機会をたくさんつくるよう、どんどん働きかけていきたいですね。「教育とは、子どもたちの心に興味の火を灯してあげることだ」。私が大好きな言葉です。次の世代のために、この言葉を伝えて行きたいと思います。