健全なデジタル情報化社会のために
vol.2 ルールとモラル
次にデジタル化の功罪を討議したい。テクノロジーの進歩に伴い、情報を利用しやすくなった半面、情報に対するモラルが低下傾向にあるのではないかという指摘があ る。一方、「著作権はうるさくいわないから多くの人に見て(聞いて)ほしい」という著作権者も見受けられる。さまざまな意見がある中で、著作物の利用者が混乱する要素 となっているのではないか

石 澤
著作権法も時代に合わせて改正されているが、法 より現実が先に進んでしまう。技術の進化で生活や仕事のやり方が変わっているのに、法律が追いつかない。どこかで歯止めが必要だと思う。

久保田
法の規定があいまいな部分、グレーゾーンを自 らの都合のいいように解釈する、あるいは無視するという傾向が見られる。法の目指す公共の利益より自己の利益を優先させるという点でモラルは低下していると思う。原因 はさまざまいわれるが、私は「なぜ守らなくてはいけないか」というルールの成立過程をきちんと理解している人、理解しようとする人が少なくなっているからだとみてい る。考え方が近視眼的だ。

稲 垣
ルールをどう認識するか、ルールを誰が作るかの 問題について、日本全体で構造改革が起こっている。以前は国がルールを決めて、行政指導のような形で民間に徹底させていた。それが規制緩和で「自分の責任でリスクを判 断してルールを決めろ」に変わってしまった。ところが、「リスクをどう判断するか」の枠組みも教育も未成熟だ。大事な核が欠落したまま制度だけが先行してしまったの で、自らルールを見いだすことが困難になっている。
最後に、著作権保護と利用のバランスをどう取っていくかという問題について。

松 本
絶版になった漫画本には根強いニーズがある。戦 前、戦中の作品の復刻を手掛けているが、現在、著作権を誰が保有しているかを調べるところから始めなくてはならず、多大な労力を要する。手を尽くしても著作権保有者が 探し出せないときは、復刻をあきらめるか、事情を書き添え「ご連絡ください」として出版するか、現在はこの2つしか方法がない。後者は無断使用になってしまうのでもど かしい思いだ。こうした事情を考慮した新しいルールが定められるのが望ましい。

稲 垣
紙に情報が定着し、紙を渡すことが情報の移転と なった時代と、データを有体物媒体から切り離しても渡せるデジタル時代の著作権をどうとらえるかというのは、非常に複雑で難しい問題だ。ソフトウエアやアニメを例にす ると、企業とクリエーターが著作権を分割して保有しているケースが多い。だが、会社が消滅すると権利関係が不明確になり、一部の了解だけでは全体を再現できない。冒頭 に発言した著作権管理を念頭に置いたビジネスモデルは、そうしたリスクも含めているので、著作権の受け皿となる権利保護団体やサービスが必然的に登場してくると思う。

石 澤
テレビ初期の映像はほとんど残されていないよう に、確かに存在したが今は記憶の中にしか残っていない情報がある。そうした情報が、もし何らかの形でどこかに保存されているとしたら、一種の文化財として世に発表でき るシステムやルールも必要ではないか。
知財はこれからの日本を支える貴重な資産だ。今回の議論を通じて、著作権と正面から向き合う重要性について認識が深まったと思う。だがまだ入り口に立ったにすぎ ない。今後、知財戦略の立案や教育、啓発にはスピード感が必要だろう。



